ペンギン
ペンギン

CEぼん!
全身麻酔で眠っていたら、体も動かないんですよね?
それなら、筋弛緩薬って何のために使うんですか?

CEぼん
CEぼん

実は、「眠っていること」と「筋肉が動かないこと」は別なんだ。
全身麻酔では、眠りをつくる薬とは別に、筋肉の動きを抑えるための「筋弛緩薬」を使うことがあるよ。
今回は、そもそも筋肉はどうやって動いているのか、筋弛緩薬はどこでその動きを止めているのかを見ていこう!

眠っているのに、どうして筋弛緩薬が必要なの?

これまでの記事では、全身麻酔には、

など、それぞれ違った役割があることを見てきました。

では、患者さんが十分に眠り、鎮痛も行われていれば、それだけで手術に必要な状態になるのでしょうか?

実は、手術によってはもう一つ、

「筋肉の動きを抑える」

ことが必要になります。

私たちの筋肉は、脳や神経から送られてくる「動け」という信号によって収縮します。

全身麻酔で意識がない状態になっても、この神経から筋肉へ信号を伝える仕組みそのものが、必ずすべて止まるわけではありません。

そこで使われることがあるのが、筋弛緩薬です。

筋弛緩薬は、神経から筋肉へ「動け」という情報が伝わる部分に作用し、筋肉を動きにくくします。

ポイント

「眠っていること」と「筋肉が動かないこと」は、同じではありません。

催眠薬は主に意識をなくすために使い、筋弛緩薬は筋肉の動きを抑えるために使います。

それぞれ役割が違う薬です。

筋肉の動きを抑えると、手術で何が変わるの?

筋弛緩薬は、すべての手術で必ず使うわけではありません。

手術の内容や麻酔方法などに応じて、必要性を考えて使用します。

代表的な目的の一つが、気管挿管をしやすくすることです。

全身麻酔では、呼吸を管理するために、口から気管へチューブ(気管チューブ)を入れることがあります。

このとき、声帯周辺を含む筋肉の緊張が十分に緩んでいると、気管チューブを入れやすい状態をつくることができます。

挿管時の筋肉の緊張

また、手術中に筋肉が緊張していると、手術する場所によっては術野を確保しにくくなることがあります。

特に腹部の手術などでは、筋肉を弛緩させることが手術操作を行いやすくすることにつながる場合があります。

さらに、手術中に患者さんの体が意図せず動くことを防ぐ目的でも使用されます。

ただし、必要な筋弛緩の程度は手術によって異なります。

そのため麻酔科医は、手術内容や患者さんの状態を考えながら、筋弛緩薬を使用するか、どの程度使用するかを判断します。

そもそも筋肉は、どうやって動いているの?

筋弛緩薬の働きを理解するために、まず筋肉が動く仕組みを簡単に見てみましょう。

たとえば、

「手を握ろう」

と思ったとします。

脳から出た「動け」という信号は、神経を通って筋肉の近くまで伝わります。

しかし、神経と筋肉は一本の線のように直接つながっているわけではありません。

神経の終わりと筋肉との間には、わずかなすき間があります。

この神経と筋肉が情報をやり取りする場所を、

神経筋接合部

といいます。

神経の信号が神経筋接合部まで届くと、神経の末端からアセチルコリンという物質が放出されます。

アセチルコリンが筋肉側にある受容体に結合すると、その情報が筋肉へ伝わり、筋肉が収縮します。

大まかにすると、

脳から「動け!」という指令 → 神経を信号が伝わる → 神経の末端からアセチルコリンが放出される → 筋肉側の受容体に結合する → 筋肉が収縮する

という流れです。

神経筋接合部の働き
神経筋接合部

運動神経から筋肉へ情報を伝える場所です。

神経の末端から放出されたアセチルコリンが筋肉側の受容体に作用することで、神経から筋肉へ「動け」という情報が伝わります。

筋弛緩薬は、どうやって筋肉の動きを止めているの?

すこし専門的になりますが、筋肉が動く仕組みが分かると、筋弛緩薬がどこで働くのかも見えてきます。

全身麻酔でよく使用される筋弛緩薬の一つに、ロクロニウムがあります。

ロクロニウムは、神経筋接合部にある筋肉側のニコチン性アセチルコリン受容体に作用します。

通常は、神経から放出されたアセチルコリンがこの受容体に結合することで、筋肉へ「動け」という情報が伝わります。

ところがロクロニウムが受容体をふさぐと、アセチルコリンが受容体に結合しにくくなります。

すると、神経から「動け」という信号が届いていても、その情報が筋肉へ十分に伝わらなくなります。

その結果、筋肉の収縮が抑えられます。

ロクロニウムの働き
CEぼんのイメージ

神経から筋肉へ情報を伝える仕組みを、

「プラグとコンセント」

に例えてみます。

アセチルコリンは「プラグ」、

筋肉側の受容体は「コンセントの差し込み口」です。

普段は、アセチルコリンが受容体にピタッとくっつくことで、**「動け!」**という情報が筋肉へ伝わります。

ところがロクロニウムがやってくると、アセチルコリンより先に受容体をふさいでしまいます。

コンセントの差し込み口がふさがれていると、プラグを差し込めないのと同じように、アセチルコリンが受容体に結合しにくくなります。

その結果、「動け!」という情報が筋肉へ伝わりにくくなり、筋肉の動きが抑えられます。

※実際の薬の働きを分かりやすくするためのCEぼんなりの例えです。

ロクロニウムをプラグとコンセントで表したイメージ
ニコチン性アセチルコリン受容体

神経から放出されたアセチルコリンを受け取る、筋肉側の受容体です。

アセチルコリンが結合することで、神経から筋肉へ「動け」という情報が伝わります。

筋弛緩薬は、「眠らせる薬」ではない

ここは、とても大切なポイントです。

筋弛緩薬によって筋肉が動かなくなっても、それだけで意識がなくなるわけではありません。

また、痛みを感じなくなる薬でもありません。

筋弛緩薬の主な役割は、神経から筋肉への情報伝達を抑えて、筋肉を動きにくくすることです。

つまり、

というように、それぞれ役割が異なります。

もっと詳しく!

ここからは、**「筋弛緩薬がどのくらい効いているのか、どうやって確認するの?」**というところをもう少し詳しく見ていきます。

手術中に筋肉が動かないことだけでなく、手術が終わるときに筋肉の働きが十分に戻っていることを確認するのも、とても大切です。


筋弛緩薬がどのくらい効いているか、どうやって分かるの?

筋弛緩薬は、「薬を入れたから効いているはず」「時間が経ったから、もう切れているはず」と時間だけで判断するものではありません。

患者さんによって、薬の効き方や回復する速さには違いがあります。

そこで、筋弛緩の程度を確認するために使われるのが、筋弛緩モニターです。

代表的な方法の一つに、TOF(Train of Four)刺激があります。

TOFでは、末梢神経に短い電気刺激を4回与え、その刺激に対して筋肉がどのように反応するかを確認します。

筋弛緩薬が強く効いていると、刺激を与えても筋肉の反応は小さくなったり、反応しなくなったりします。

筋弛緩から回復してくると、筋肉の反応も戻ってきます。

つまり、神経に一定の刺激を与えて、そのとき筋肉がどのくらい反応できるかを見ることで、筋弛緩の程度を評価しているのです。

TOF

Train of Fourの略です。

神経に4回の電気刺激を与え、そのときの筋肉の反応から筋弛緩の程度や回復状態を評価する方法です。


「4回動いた」だけでは、十分に戻ったとは限らない?

TOFでは4回刺激を与えるため、「4回とも筋肉が反応したなら、もう筋弛緩薬は切れているのでは?」と思うかもしれません。

しかし、4回の反応が確認できるだけでは、筋力が十分に回復したとは限りません。

そこで重要になるのが、**TOF比(TOF ratio)**です。

4回の刺激に対する反応のうち、最初の反応と4回目の反応の大きさを比較します。

筋弛緩薬の影響が残っていると、刺激を繰り返すにつれて反応が弱くなる「フェード」がみられることがあります。

筋弛緩から十分に回復してくると、4回目の反応も最初の反応に近づいてきます。

そのため、手術終了時には単に反応回数を見るだけではなく、定量的な筋弛緩モニターを使って回復の程度を確認することが重要です。

TOFの測定と考え方

筋弛緩薬が残っていると、何が問題なの?

筋弛緩薬は、手術中には筋肉の動きを抑えるために役立つ薬です。

しかし、手術が終わって自分で呼吸する段階では、筋肉の働きが十分に戻っている必要があります。

筋弛緩薬の作用が残っていると、

など、呼吸や気道の安全に影響する可能性があります。

そのため、手術が終わったら、**「目を覚ましたから大丈夫」だけではなく、「筋肉の働きも十分に戻っているか」**を確認することが重要です。

このように、手術が終わったあとも筋弛緩薬の作用が残っている状態を、残存筋弛緩といいます。

残存筋弛緩の考え方
ポイント

全身麻酔からの回復では、

意識が戻ることと筋弛緩から十分に回復することは、別々に確認する必要があります。

筋弛緩薬の作用は、どうやって戻すの?

筋弛緩薬の作用から十分に回復させるために、薬を使って筋弛緩を拮抗(きっこう)することがあります。

ロクロニウムに対して使用される代表的な薬が、スガマデクスです。

スガマデクスは、体内にあるロクロニウムを包み込むように結合します。

すると、体の中で自由に動いて受容体に作用できるロクロニウムが減っていきます。

その結果、神経筋接合部の受容体をふさいでいたロクロニウムも少しずつ離れ、アセチルコリンによる神経から筋肉への情報伝達が再び行われやすくなります。

こうして、筋肉の働きが回復していきます。

CEぼんのイメージ

先ほど、アセチルコリンを「プラグ」、筋肉側の受容体を「コンセントの差し込み口」に例えました。

ロクロニウムがあると、コンセントの差し込み口が先にふさがれてしまい、アセチルコリンというプラグが差し込めなくなります。

では、スガマデクスはどう働くのでしょうか?

スガマデクスは、真ん中に穴のある輪っかのような形をしています。

この中央の空間にロクロニウムを取り込み、ロクロニウムが受容体に作用しにくい状態にしていきます。

体の中で自由に動けるロクロニウムが減っていくと、受容体に結合していたロクロニウムも少しずつ離れていきます。

すると、ふさがれていたコンセントの差し込み口が再び使えるようになり、アセチルコリンというプラグが受容体に結合しやすくなります。

その結果、**「動け!」**という情報が、再び筋肉へ伝わりやすくなっていきます。

※実際の薬の働きを分かりやすくするためのCEぼんなりの例えです。

スガマデクスがロクロニウムを取り込むイメージ

筋弛緩薬を使えない手術もあるの?

手術によっては、**「筋肉が実際に動くこと」**そのものが、大切な情報になる場合があります。

たとえば、神経の近くを操作する手術では、神経を刺激したときに筋肉が反応するかどうかを確認することで、神経の働きを見ながら手術を行うことがあります。

このような場面で筋弛緩薬が強く効いていると、神経に信号が伝わっていても筋肉が動きにくいため、反応を正しく確認できないことがあります。

そのため、MEP(運動誘発電位)やNIMなど、筋肉の反応を利用する神経モニタリングを行う手術では、筋弛緩薬の使い方に注意が必要です。

現場では

筋弛緩薬は、「使う・使わない」だけで考える薬ではありません。

気管挿管のときには十分な筋弛緩が必要でも、その後に神経モニタリングを行う場合は、筋弛緩の程度が測定へ影響することがあります。

そのため、手術内容やモニタリング方法、現在の筋弛緩の程度などを確認しながら管理します。

手術中は、何を見ながら筋弛緩薬を調整するの?

筋弛緩薬も、単に決められた時間ごとに追加しているわけではありません。

麻酔科医は、

などを確認しながら調整します。

手術の途中では十分な筋弛緩が必要でも、手術終了時には筋肉の働きを回復させる必要があります。

つまり筋弛緩管理では、**「しっかり効かせること」だけではなく、「必要なときに、必要な程度だけ効かせ、最後には十分に回復させること」**まで含めて考える必要があります。

現場では

筋弛緩薬を投与した時間だけを見て、「そろそろ切れているだろう」と判断するのではなく、筋弛緩モニターを使って実際の反応を確認することが重要です。

特に手術終了時には、患者さんが安全に自分で呼吸できる状態へ戻っているかを考えながら、筋弛緩からの回復を確認します。

まとめ

全身麻酔では、患者さんを眠らせることと、筋肉の動きを抑えることは別々に考える必要があります。

今回のポイントを整理すると、

CEぼんのひとこと

全身麻酔では、眠っている・手術の刺激に対応している・筋肉が動かないという状態を、それぞれ違う仕組みでつくっています。

見た目には同じ「眠って動かない患者さん」に見えても、体の中では別々の薬が、それぞれの役割を担当しています。

筋弛緩薬は手術を行いやすくするためにとても役立つ薬ですが、手術が終われば筋肉の働きはしっかり戻っている必要があります。

だからこそ、**「どれくらい効いている?」そして、「ちゃんと戻った?」**まで確認することが、筋弛緩管理では大切です。

次回予告

次回は、**「全身麻酔中、呼吸はどうしているの? ~気管挿管と人工呼吸~」**を見ていきます。

全身麻酔では、なぜ自分で呼吸するだけではなく、人工呼吸器を使うことがあるのでしょうか?

気管挿管は何のために行うのか。そして麻酔中、呼吸をどのように確認しているのか。

酸素、二酸化炭素、SpO2、ETCO2などにも触れながら、やさしく見ていきます。